■■■【4】
「どうして…人間が…」「この森は王国のすぐそばに位置しているからな。人間が迷い込んだところで不思議ではないが」
「でも死の森って呼ばれてるんでしょう?だったら迷い込むも何も近寄らないんじゃない?まぁ、何も知らない旅人なら話は別だけどね」
…まさか、王国騎士が来たのか?長き間この森にいる女という噂もトレジャーハンターの間では流れているみたいだが。しかし気配は一人。シューの言うように旅人か…?
雷鳴は瞬時に思索を巡らせるが考えがまとまる事はない。静かに嘆息し、かすかだが怯えの色を漆黒の瞳に浮かべているエリスに目を向ける。
「仕方ない、俺とシューで様子を見てこよう。お前はウルカヌスと共にここにいるんだ。いいな?」
「…雷鳴が行くの?」
「すぐに戻るさ、行くぞシュー」
「はいはーい。エリスは来ちゃだめよ?じゃあウルカヌスあとよろしく―」
その一言を最後に二人の姿は消え去る。立ち去ったのではなく小さな炎が風で消されるかのように消えいったのだ。先程まで二人がいた場所を不安げに見つめるエリスにウルカヌスは安心させるように頬を擦り寄せる。
そのウルカヌスに小さく「大丈夫。」と声をかけその場に座り込んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「で、雷鳴神…私たちが戦ってた時何を考えてたのよ?いつもに増して神妙な顔しちゃって」
「…気づいていたのか」
「当たり前でしょ。あの子は気づいてなかったみたいだったけどね。それで?何よ?」
「あぁ、戦いと夜、その時以外ではやっぱり性格が一変するのだなと。口調からして多少なりとも変わってるだろう」
「確かに…ね。戦い終わったら一気に幼くなった感じで、でもいいんじゃない?別にそれが害をなしてる訳じゃないんだし……いたわよ。人間」
神足で気配のする方向へ駆け抜けていた二人の前に軽装で赤茶の馬にまたがった男が現れた。男に気付かれないよう強い神気を殺す。神である二人にとって気配をなくす事は造作もなく常人であれば全く分からないだろう、魔術師や法術師でさえ気づく事はない。完全に消せばエリスですら分からない。事実エリスが戦っている際、雷鳴は神気を消していたのだ。
「…強いわね、あの男」
シューの小さな呟きを聞きとめ雷鳴は頷く。男は背中を向けており表情を窺う事は出来ないが纏う空気は数々の戦いを体験してきた者のそれである。
さて、どうするか…?こういう人間は下手に接すれば何度もここに来る。かといって殺す訳にもいかないしな…たかが人間ごと気の血など受けるつもりもない…
「こちらを見ていないで話しかけられたらどうですか?」
何…!?
雷鳴とシューは瞠目する。突然発せられた言葉はこちらに気付くはずがない男からだったからだ。水のように澄み渡る声、漆黒の髪を持つ男。遠目からだがまだ若いと思われる。
隠形していた俺たちに気付くだと…?
「こちらに住まう神々だとお見受けするが、少し聞きたい事がございます。姿を現しては頂けませんか?」
「…」
沈黙を返す二人。否定でもなく肯定でもない、かすかな殺気だけを持つ沈黙。
それを涼やかな表情で受け流しさらに言葉を紡ぐ。
「私の名は、カイ=コウディラクエイ=ロウ=ユーマ。コウディラクエイ王国の国王です」
国王、そんな男が何故ここに…それよりも聞きたい事って、何…?だいたい国王ってこんなに若かったかしら。確か私が知ってる国王って老翁だったような…